作文帳

6分前

雨に

どこかへ消えよう消えようと毎日思っているのだけれど、なかなか消えられなくて。今日雨がしとしと降り続いているのも雨女である私のせい。全世界に謝罪会見。私の謝罪会見は、長い。記者たちも飽き飽きして、重たいカメラを下ろし始めた。フラッシュがたかれることもない。乱雑に置かれた録音機の赤い点滅だけが、私の発言を待っている。

私はほんとうは、あなたに迎えにきて欲しい。今日この頃は、ずっと水の中にいるみたいな気分。私を水の中から掬い上げられるのは、あなただけ。

どうも細かいことを気にしすぎていけない。

あなたと一緒に布団で寝る夢を見た。あなたの体温が私をあたためた。いなくなるのかなと思ったけど、あなたは私が起きるまでいてくれた。

周りの人が私を見る目がいやでいやで、私は頭が悪くてとろくてごめんなさいね、とまた全世界に謝罪会見。ああでも別に私は、頭の切れる有能な人間になりたいとは思わないの。すみません。でもすみませんとは思っています。そろそろ消えなくてはならないと思っています。許してほしいです。

もちろんわたしは、みなを許す。

大海のような広い心を持っているから。

わたしは、偉いのです。

わたしは、牛乳瓶を懐かしく思った。牛乳瓶を口でくわえてふざける同級生を懐かしく思った。女の子が、ある男の子の牛乳瓶のフタが汚いと言い出したことを発端にイスを投げ合う喧嘩になったあの光景を懐かしく思った。グラウンドの砂埃がわたしのからだに体当たりした。生徒玄関のざわめきと、簀の子の音。好きな人の下駄箱。一緒に帰るはずだった友達の下駄箱。誰もいなくなった廊下にわたしの心臓の音。

何にも悲しくない。

こっちにおいで、と誰かに手を振られたくて生きてるのかもしれない。

そろそろ、わたしも誰かに手を振ってあげなくては。

と思っていたのだけど、なかなかうまくはいかない。

こうして見つけたのです。あなたの化石。博物館へ行きましょう。博物館で綺麗に丁寧に展示してもらいましょう。何も説明はなくて大丈夫。わたしにだけわかればいいから。