作文帳

6分前

新幹線

雲があまりにも低くてどこかに連れ去られそうな夕方。私は泣きそうだったし田んぼは青々として美しかった。小さな罪悪感が蔓草のように心臓を覆ってむしりとる気力もなく新幹線の座席に寄りかかるのでした。遠くの山や集落を見つめるのはなんとなく救われる。規則正しい街路樹が霧雨を浴びている。そんな風にきもちよく、生きていけたら。小さいことがうまくいかない。最後の粉々の煎餅が気管に入って咽せる。君は知っていたでしょうか。雲は帯を作って形なく意思もなく浮いていて。新幹線からみんな看板が見える。新幹線の小さめの丸い窓が好き。すでに私は泣いている。今まで気づかなかったいいところ、嫌いなところ、全部愛おしいのだから、馬鹿だと思います。

完璧ではないけれどそれをわかった上で許してあげているわけで。

最近の心持ちは、一向に端の見えない貨物列車を見て怖くなった時の気持ちに似ている。いったいいつまで待たされるのだろうとカンカンと鳴り響く踏切の前で母と手を繋ぐ小さな私。四角い臙脂色の貨物が連なり一生続くかのように思われる。怖いわね。

誰にもわかられたくないと思いながら、誰かにわかってもらいたくてしょうがない。私あなたと一緒に散歩するだけでいいのに。手繋いでもいい?だって、手、繋げそうだったんだもん。回想の中のあなたはとびきり優しい。細い二の腕も撫でてあげたい。決して綺麗じゃないけど私、だって私、触りたいんだもん。内緒にしておかなきゃ。誰にもバレないようにね。

山が近づくと霧でみんなぼやける。あの雲の中に私は今入っている。霧が晴れて若い緑とぽつぽつ家が現れる。若い緑に励まされたところで突然トンネルに入る。トンネルは退屈。人工的な光が残像で閃光となりたびたび踊る。私にはいらないもの。招福まんじゅうをつい手に取る。あんこと生地がなめらかで幸せの鐘が鳴る。聞こえましたか?

あなたの鼻。なんでかってわかりますか?私あなたの鼻、見ています。いつも。まつ毛も見ています。あなたのまつ毛はいつだって上を向いています。私のまつ毛はいつだって下を向いているのに。

山の斜面で工事中。何も変わらないでほしいと無責任に思っています。ホテル群が立ち並ぶ駅に泊まればまたたくさんの人が乗り込んで来る。茶色く煤けた外壁にもの寂しさを覚える。眠たいけれど今眠ればきっと悪い夢を見る。長い午睡はよくないもの。

爪の手入れができていない。まったく、貧相な爪をしている。二枚爪に剥がれかけのマニキュア、伸びっぱなしの親指。ギターを弾いて左の中指とお姉さん指は皮がむけている。帰ったらきちんと塗り直さないといけない。

私ほんとに、あなたに会いたいな‥。